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夜中の電話  ・・・1


久しぶりに、小さい話を書きたくなって、ちびちび書いています。
昔と違って、一気に書くことができません(笑)

自分の涙で溶けそうな切ない恋愛話もいいけれど、
ちょっとした、日常のどこにでもありそうな話を、
書きたいと、思いました。
短い、話を。
聞いた話や、身のまわりの事を題材にしたフィクションです。
話の挿絵は写真の加工品です(笑)

ここから先は、どこにでもありそうな
ありきたりな話です。
2、3回で完結すると思います・・・。





夜中の電話  ・・・1_c0006633_21405078.jpg





  「夜中の電話」


眠い。

座っていることには耐えられず、横になり文庫本を開く。
雨のせいだと、低気圧の所為だ、と思いながら、意識は薄くなってゆく。
まだ本を読みたいので灯りは消していない。

頁をめくる。
頁をめくる。

・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・


?何か音がする。
音は段々と大きくなる。
体を起こしたが、頭の中は真っ白だ。文庫本がベッドの下に落ちている。
知らぬ間に眠りにおちていたようだ。

何か音がしている。ぼんやりした頭で考えながら部屋を見渡す。
出窓の方から音が ・・・ ああ、電話だ ・・・電話が鳴っている。

眠くて出たくない。もう零時近いはず・・・出るのをやめようか。
一瞬そう思ったが、施設に居る父のことが頭を過ぎり反射的に受話器をとった。
「もしもし?」

「もしもし、こんばんは」     ・・・ Nだ。
「はいはいこんばんはー」  反射的に、明るく答えていた。
「何、寝てたの?」「いや、寝てないよ大丈夫・・・どしたの?」
「いや?何でも」   なんだ用事ないの?  ・・・依然として、まだ猛烈に眠い。

「昨日姉ちゃんから久しぶりに電話きたぞ」姉ちゃんとは、私の兄嫁のことだ。
「え?なんで?  ・・・何かあったって?」
「あ、いやピオーネ送ったんだよ。で、それの礼」
「ああ、ありがとね・・・何、Mさんのところにまた頼んでくれたの?」
MさんはNの知り合いで、山梨の勝沼で巨峰やピオーネを作っている。
「ああ。  ・・・あれだろ?父ちゃんも食えるんだろ?持って行けば」
父の施設は、食べ物の持ち込みはあまりいい顔をされないと以前兄が言っていた。
だから、父のところには多分持って行っていないだろう。
「うん 大丈夫だと思うよ・・・ありがとう」
「父ちゃんも、季節のものでも食べたら少しは元気出ていいんじゃねえの?」
「そうだね、喜ぶと思うよ ありがとね」


そんな話から始まった電話だが、依然として私は眠かった。
だが、実は今寝ていたと言ったら、きっと
ああ、ごめんごめん、別に用事じゃないんだ、と言って
Nはすぐに電話を切るだろう。
仕事中でない限り、Nからの電話を私はこちらから切らない。
滅多に電話をかけてこないので、かけてきた時は
何か話したいことがある時だけだとわかっているからだ。


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Nとは、若い頃何年か一緒に暮らしていた。
若い頃などというより、子供だった。暮らし始めたのは、10代の頃だ。
Nは27だった。

今の自分から見たら27なんて年齢はてんで若造だが、
その頃の、子供の自分から見たら立派な一人前の大人だった。
そして私はと言えば、同じ年頃の子たちと比べると多少大人びていたかもしれないが
Nから見たら、付き合ってみれば口ばかりで背伸びしている女の「子」だったので、
ガキで生意気に見えて仕方なかったようだった。
おまけに私は両親共働きで一人で過ごす時間が多かったので、
自分の気持ちを伝えるということがものすごく不得手で下手くそだった。
だから、おまえは何を考えているかわからないと何度も言われ、
言われた私は、伝えたい気持ちを胸がパンクしそうなくらい抱えていながら
何か言おうものなら全て否定されてしまいそうで、
言葉を口から発することができなくなるのだった。


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「前に比べればだいぶいいですって言ってたけどな」
「うん、行った時は大概テレビ見てるか眠ってるかでぼんやりしちゃってるけどね」
父は約1年前、脳内出血で倒れて半身不随になり、
今は、自立を目指す人にリハビリを施し面倒を見てくれる施設に入っている。
時間を作って様子を見に行くようにしてはいるが、
普段は自分の仕事場の近くに施設を見つけてくれた兄に頼りっぱなしだ。
高齢で、半身不随で、偏屈な性格の父に付き合うのは
ストレスのたまることだと容易に想像がつく。
父が倒れて間もない頃は、父のすっかり弱った様子や不明瞭な言葉を嘆き、
実家の整理されていない部屋で、預金通帳を探すことすら大変だったことなどを
話してくれたが、近頃は兄のところに行っても、兄の口は重い。
父を看ることに疲れているのだと思う。


私はまだ眠気がとれない。
「今日、吉村昭の本買ったんだ」何冊かNに貸してもらっている作家の名前を口に出す。
何か話しやすい話題を出さないと眠ってしまいそうだ。
一緒に暮らさなくなった今でも、
面白いと思った本を、Nはよく貸してくれる。
そういう面白い本があった時も、電話がある。
「おまえ、あれ面白いから読んでみな・・・***の○○○」
面白い映画を見た時も、電話がある。
「おまえ、あれ面白いから今度見てみな・・・***」
感想はいつもあまり細かくない。
だが、どういうことを面白いと思ったり、何に感動しているか、
私には大体わかる。
細かい心の機微や、物を引き気味且つ斜めに見る目や、
分をわきまえた謙虚さ、デリカシー・・・そんなものが根底にあることが必要なのだ。
思えば、そんな感覚に惹かれて一緒に暮らす気になったはずだった。


「吉村昭のなんてやつ?いっぱい持ってるから俺んちにあるかもしれないぞ」
「そう?・・・えーと、『天に遊ぶ』っていうの。短編集でまだ3話しか読んでいないけど。
 とても日常的なのに、その中の出来事が実は劇的で、
 読み終わったあと眉間に皺がよってて」 
「そうそう!だよな、読み終わったあとは眉間だよ。
 そういう、どこかに痛みみたいなもんがねえと深くないっていうか面白くない」


始まった。
こうなると独壇場だが、若い頃に比べたら遥かに物言いが丸くなった。
「俺がルールブック」的なこの感覚は、若い頃私をひどく憂鬱にさせたものだった。





・・・また書き溜まったら載せると思います。今日はここまで・・・

すみません何の盛り上がりもない、つまんないもの載せて。
もし読んで下さった方があったらお礼とお詫び、申し上げます。

by rin6174 | 2006-09-19 22:39 | 創作劇場 | Comments(10)

Commented by tabo2006 at 2006-09-19 22:48
倫さん,こんばんは。
読ませていただきましたv(^o^)v
秋の夜長には,ぴったりのショートショートですね(^_-)-☆
丁度いいところで,「つづく」になってしまいました。
後編を早めにアップしてくださいな。
しかし,ブログで初めて出会ったときから,それに実際にお会いしてもそう思っていましたけど,倫さんは才女ですね。
文藝春秋に投稿してください。
入選間違い無しです!
Commented by rin6174 at 2006-09-20 00:48
taboさん

素早いコメントありがとうございます
駄文も読んで頂いたようで・・・重ねて御礼申し上げます

才女なんてとんでもない
文章を考えるのが好きなだけで・・・それも、最近は文章を練り直すことが
少々億劫な時も多くて、自己満足もしていないような有様のままこうしてUPしちゃって(^^;

すみません・・・
Commented by corobo at 2006-09-20 00:56
眠気がとれない「私」の中で、これから何が起こるんでしょう?

つづきを待ってます。
Commented by rin6174 at 2006-09-20 01:26
coroboさん

読んでくださってありがとうございます
劇的な展開はないんです
ありきたりな日常の中にある話を書きたかったから・・・

でも、またそのうち続きを載せると思います
もしよかったら、また読んでやってください
Commented by kumasann2011 at 2006-09-20 01:36
主人公とNとの関係を如何呼べばいいのだろう。
元カレと言ってしまえば其れまでだが
一緒に暮らすということは 
相手の嫌なところをいやというほど知ることだし
それなのに断絶関係にならず
電話という細い糸でもまだ繋がれているという関係は
友情と呼べるものなのでしょうか。

それを可能とするのは 互いに大人であることなのかなぁ。
私はいい歳をして大人になれない未熟者なので
そんなことを思いました。
ぜんぜんポイントのずれた感想のようなきがしてきましたので
このへんで終わります(^^;
Commented by rin6174 at 2006-09-20 01:51
kumaさん

読んでくださってありがとうございます
実は、作者としてはかなりそれはいいポイントなのです
kumaさん、さすがに鋭いなぁ
そのへんを短編として書ききれる力量はないので多分不完全燃焼で終わるのですが
まあ、どこにでもあるありきたりな日常の枠の中で書いてみます

よろしければ、また読んでやって下さい
作者も喜びます
Commented by inamoku at 2006-09-20 21:57
男も女も同じ。
弱くて煮え切らない生き物なんだろうな。
Commented by rin6174 at 2006-09-20 22:58
いなやん

相手の、自分の弱さを受容できるようになった時
本当の心の凪がやってくると思っています

早くそうなりたいとも
Commented by ケンです at 2006-09-21 00:26 x
 「俺がルールブックだ」、、って あ~ なんか自分にも当てはまるし、最近は物言いというか 「お前随分丸くなったね」 なんぞといわれるし、、、そのたびごとに、この年になって性格が変わるなんてことはありえんと、内心思い返す。
 心の凪・・・か、、これだけの会話ができる「私」は凪いでいる人、またはそれに近い人、 なんだろうな、、と。
 で、自分を省みると、どうやら凪なんて一生無理だろなと思ってしまう。
きっと、波を選んじまう人生なんだろな、、と  あれやこれや思いが湧いてくる。。
 続き 待ってますよ。
Commented by rin6174 at 2006-09-21 23:20
ケンさん

ありがとうございます

心の凪って、堅苦しく言うと悟りかしら(笑)
いや、平和かな・・・それとも中庸?バランス?

例を挙げているうちに、自分からどんどん遠ざかっていく気がしてきました>凪

何と言うか、苦しみや哀しみの末に来る
ちょっと切ない痛みを伴う心の静けさみたいなもの
そんなものを書きたいのかもしれません
・・・書けないかもしれません(笑)

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